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「稚拙で猥雑な戦争劇場」 at GREENFESTA2015

一般審査員の皆様からのご感想一覧

昨今の世相を反映して、国際問題をテーマにしているのはグッドタイミングです。きわどいテーマでしたが最後は家族愛が勝つという後味の良いものでした。バカバカしいと思いながらもテンポの良い進行と役者さんたちの熱演で楽しめました。二時間越えの公演で満席でした。

脚本6/演出7/演技7/技術5.5/総合6(0~10までの11段階)

もちろん偶然だと思うが、ISの日本人人質殺害事件と時期が重なり、ちょっと見るのが辛いようなシーンもあった。くだらなさと、面白さと、ホロリがほどよくミックスされていて、意外に手堅く作られていた。場面設定がありえない非日常で主人公も普通の人ではないため、くだらない部分を思い切ってくだらなく、安っぽくしたことで、逆に突っ込みを入れる余地がなくなり架空の世界と割り切れ、その世界に漬かることができた。手法が漫画的と言うのだろうか、稚拙で猥雑、と制作側も開き直っており、その点の面白さはなかなか成功していると思えた。演技は上手い。年齢の幅があって個性的な役者さんが多かった。その個性を上手く活かしていた。技術はとてもシンプル。抜け穴などはかなりのチープな手作り感があり、小劇場的な面白さがあった。

脚本8/演出8/演技8/技術7/総合8

【脚本】前半はどこへ向かうのだろうという気持ちで、政治弱者向けの解説劇か?と思ってみていた。しかし、アメリカ・日本・中東の関係をどこが良いというわけでもなく、事実を事実とし、なぜそうなるのかの疑問点と結果をきちんと市民の言葉で語り、最後まで「民」という目線で描かれていたことに感動した。【演出】様々な立場、背景をキャラクターに背負わせ、まとめあげた演出には確かな演出力を感じた。人の心の緩急を役者の動きとは反比例になるような箇所もあり、引き込まれた。重苦しい題材を、まじめさだけでと思うわけでもないが、途中の全裸とかのシーンは必要だったのかと、理解できない箇所だった。笑いを取るシーンならば他の手法を取って欲しかった。【演技】それぞれのキャラクターをきちんと出していた。様々なキャラクターがいるにも関わらず、ごちゃごちゃせず絡み合っていたのは見事だったと感じる。また、息切れがするであろう動きを見せながらも、台詞がきちんと観客に伝わり聞き苦しくならないのも見事だと思った。【技術】舞台上の断たれた柱が様々な思い、国の立場、民の悲しさを表しているようで、シンプルでいながらにメッセージを持った美術だったと思う。

脚本9/演出9/演技8/技術8.5/総合9

表現がストレートで気持ちが良かった。こういったボールを投げられたらバッターボックスに立っている観客席(もしくは自分自身)は、見逃すのか、それともど真ん中の直球をセンター前にクリーンヒットできるのか、と思った。積極的にファーストストライクを狙っていけるのか、それとも初球は見逃すかによって、その後の試合展開(ここでは芝居)が違ってくるなと思った。どちらにしても投手はテンポ良く球を放ってくるのである。リズムが良いピッチングに終わってみれば(散発の三安打)完敗というシナリオであった。これは劇団にとって良い時期に入っているのでは・・・。今回は「戦争」がテーマだったが、違うテーマを持ってきたときにどういったものを演じるのかと興味を持った。技術面において、美術および音楽等、工夫すればもっともっと劇場型が進化していくと思いました。今後に期待しています。(平々凡々の感想)何故か戦争モノの芝居はどうも苦手である―というのが今まで芝居で観てきた率直な感想である。ところがどっこい、今回観劇させていただいた芝居は今までとは違って直球ど真ん中な表現。これが実に良かったと思った。

脚本7/演出8/演技7/技術4.25/総合7

「稚拙で猥雑な戦争劇場」というタイトルとアラブ諸国云々という解説から、難しく深刻な芝居かと構えていたが、良い意味で裏切られ最後まで楽しく観劇できた。中東の架空のルバム国を舞台に世界の深刻な問題を分かりやすく、単純に、ユーモアを交えて描きながら、独裁者を、権力を、アメリカを、武器商人を辛辣にこき下ろしている。「戦争を望んでいないのは国を動かすことができない人」「正義とは欲望にすり替わる」「世界が平和になるには欲しがる心を捨てる」などの台詞が心に残った。「家族が宗教」という台詞もあったが、この舞台では家族の絆、友情の大切さも同時に描かれている。コントのようなドタバタも挟まれ、脱線しそうなところでかろうじて踏みとどまり、それが厭味にならないのは、役者たちが身体を張って真剣に演じているのが舞台から伝わってくるからである。衣裳・小道具は、兵士の持つ段ボール製の武器がとても良く出来ていた。衣装はエロメイド役の鈴木ゆかさんにご苦労様と言いたいくらいで、他に取り立てて印象はない。年明け早々パリでの連続テロ事件、そしてイスラム過激派集団「イスラム国」によって湯川遥菜さん、後藤健二さんが殺害されるに及び、遠い国の出来事と傍観を決め込んでいた日本人にも少しは関心を呼び起こしたこの時期に、大胆にもこのような内容で舞台を作り上げた皆にエールを送りたいし、同時にこのような芝居を観ることができる我々は幸せだと思う。しかしこんなに自由に表現できるのは芝居だからで、映画、テレビなどの映像世界ではとても難しい。今のところ、漫画と舞台(小さい)ではかなりきわどい表現が可能である。某国の某総理もこの舞台のラストのように、集団的自衛権、秘密保護法を再考して欲しい。作、演出の佐藤雀さんが自分は「右翼でも左翼でもない」と書いていたが、私は「右翼でも左翼でもなく無欲です」と常々言っている。

脚本9/演出9/演技8/技術8/総合9

中東のルバム国に拘束された神田川首相の娘を、首相自らが助けに行くと言う奇想天外の話ながらも、イスラムとアメリカとの問題や安倍内閣が決定した集団的自衛権や憲法第九条の解釈問題を彷彿とさせ、今まさに議論されている事象でとても興味深かったです。ルバム国に対する無差別問題で、子供たちなど2万人の命が奪われた事件を世界に報じることを条件に娘が解放されますが、確かにある一方からの情報やその国にとって都合の良い報道のみを信じてしまうのは危険なことだと思います。9.11や自爆テロを引き起こしたのも、ある意味ブッシュ親子が石油の利権のためにやった湾岸戦争やイラク戦争で死んだ何万人もの一般の市民や子供たちの身内の人々の怒りです。憲法九条には「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と書かれています。日本は世界平和のために人道的な援助はしても、決して武力による戦争で子供たちや一般市民を犠牲にしてほしくはありません。シリアスなテーマながらもコメディタッチで繰り広げられていたので、色々考えさせられましたが、なかなか面白かったです。

脚本10/演出9/演技10/技術9/総合9

実にタイムリーな芝居。しかも少々危ない素材と言うか、ブログなら炎上しかねないテーマを舞台化している。観劇前には予想もしなかった内容だった。現代の劇団は、民芸など一部を除いて大劇団から学生劇団まで政治的題材を避けがちである。その大きな理由は二つ。観客が老齢化している大劇団の固定観客層は、古い概念語で申し訳ないが小市民的幸福に安住し、もはや政治的テーマには食傷している。一方小劇団の主要な観客層である若い人はほとんどが非政治的で政治と言う言葉を生理的に受け付けない。もうひとつの理由は、時代を変更したり場所を未知にしたり人物を戯画化したりしても、どうしても芝居が政治的に偏りがちになり(ときにはアジに聞こえ、政治的主張が突出する)演劇としての評価が二の次になり評価を賞賛も受けにくい。それでも雀組は挑んだ。作演出の佐藤雀の蛮勇に拍手・拍手・拍手!!タイトルもチラシも秀逸。ジャンヌダルクみたいな白人女性が両乳房をむき出しにして、右手に旗、左手に銃を持ち戦線の先頭に立っている。そこにタイトル「稚拙で猥雑な戦争劇場」なんなんだこの芝居は。どうしても見たくなるようなチラシだ。ストーリーは魑魅魍魎で複雑怪奇だが、単純明快で破顔一笑(アメリカ人捕虜の口ぶり)。アメリカから空爆を受けている中東の某国で、日本の総理大臣の娘が誘拐される。某国のフセイン閣下はアメリカ軍の空爆停止を交換条件に娘を解放すると総理大臣に提案する。テロリスト国家と交渉せずのアメリカの方針に逆らえない、アメリカのポチを認識する総理大臣だが、娘のために中東の某国に秘書の峰不二子を連れて密かに訪問して娘を自力で解放しようとする。近隣諸国取材を希望する記者ですらパスポートを取り上げられる現実を逆手にとって、ハチャメチャでまことに優しい総理大臣。こんな総理がいればいいなあ!!その有り得ない設定をいっそう混乱させドタバタにするのが日本のセールスマンとアメリカ人捕虜の役割。商売だけに熱心で、まるで政治状況にオンチな日本の自動車セールスマンの二人がフセイン閣下に商談で来ているが、あっさりと某国の捕虜となる。しかし、政治には無関心な日本のセールスマンだが、とにかく商売熱心で空爆下でも何とかして企業戦士として捕虜の身分から自力脱出してフセイン閣下に車を売りつけてしまう。また何故か某国に拘束されているアメリカ人捕虜(すごく日本の四字熟語に詳しくユニークでトリックスターのような役割)が、セールスマンや総理大臣の娘と親友になり、フセイン閣下のアメリカ憎しの気持ちを和ませる。総理大臣もそれまでは政務に没頭して父娘の対話を忘れていたが、危機に瀕して父娘の固い絆を取り返して娘を奪還しようとする。敵・味方・中立がくんずほぐれつするなか、日本人セールスマンと某国のアマゾネスが恋に落ちたりもして、大団円は平和を願う人々の心が届き、人質は解放されアメリカの空爆は停止される。起承転結がしっかりした骨太の脚本だ。商業演劇の1ヶ月公演の台本としても通用する。作家の佐藤雀は作家としての視点も劇団の立ち位置もしっかりと把握した上でドラマを展開している。喜劇に徹頭徹尾に徹しているのに、シリアスで冷静な世界観で観客に異議申し立てを起こさないで、小気味いい寓話あるいはファンタジーとして観客の微苦笑を誘って芝居を終わらせる。私見だが、ここ数年の岸田戯曲賞作品よりはるかにしっかりした脚本だ。次の作品が待たれる作家である。ほぼ2時間、全く観客を飽きさせないで俳優を全速力で登場させ、捌けさせた佐藤は演出家としての技術も安定していて芝居進行に破綻がまるでない。上手花道のような登場も、下手トンネルのような登場も、狭い舞台を縦横に駆使することで、離れた国で起こる数本の筋の錯綜を劇的に集中して巧みにキャラクターを収束していた。残念だったのは十数人の俳優には少し舞台が狭かったようだ。何度か交通渋滞を起こして俳優の動きがぎこちなくなっていた。もう少し左右が広く奥行きのある舞台で思い切り演じればテーマの重さを吹き飛ばす軽快で剽軽な芝居にもなり、初期のコント55号のような全速力のコント的面白さも加味されただろう。若手からベテランまで全俳優の演技も発声もしっかりしていた。極度にデフォルメされた役割を忠実に演じ、劇団全体として完璧なアンサンブルを見せていた。二人の自動車自動車セールスマンには、誠実でバカ真面目、そのくせ時として冒険してしまう日本の普通のオヤジの哀感がしみじみと滲んでいた。特に股間カバーをつけたサラリーマンは最後まで舞台を微笑ましくしていた。セットは場面が多く、あっさりしたもので物足りなくも感じたが、上手花道を使ったり、トンネルを破ったりしての登場など楽しい工夫が横溢していた。音楽はストーリー進行に密接に寄り添うこれ以上ない劇伴奏音楽になってて、場面転換などでは音楽だけでも次のシーンへ期待を持たせた。

脚本10/演出9/演技10/技術8.75/総合9

【脚本】面白い。イスラム国の「(日本人)人質事件」とまさに同時進行しているストーリー展開。新聞やテレビなどのマスコミが及び腰の報道をしている今だからこそ、インパクトのあるホンと言える。これこそ小劇場ならではの作品と言える。【演出】台詞の怪しい部分が多く見られたのは少し残念。首相役はまさにドンピシャのキャスティングで笑えた。この役者だけは妙に滑舌がよく印象に残る。【演技】なかなかシリアスな内容だが、それでは重くなるところを意識的に笑いを取り入れることでバランスを取っている。その演技はわざとらしいので、もっとクールに演じると面白くなると思う。【スタッフ】平均的。チケットの申込みに対する対応が遅かった。

脚本9/演出8/演技7/技術7.75/総合8

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